インタビュー

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(小島)例えば、ある人が大濠公園(福岡市にある1周2kmの公園)1周を走るとしましょう。久しぶりに走ると、途中で呼吸が苦しくなって、脚が重たくなってきますよね。

 

(RP)はい。息切れして脚が上がらなくなって、走り終えた後は下半身がガクガクしてきます。

 

(小島)その「呼吸が苦しくなり、筋肉が動かなくなる」というポイントが、まさにその人にとっての「閾値(Threshold)」で、つまり、「これ以上速いペースだと、乳酸を処理できなくなる」という心肺機能や筋力の限界です。

 

(RP)運動の負荷が高まると、グリコーゲンの代謝生産物である乳酸が血中に蓄積しますから、ランニングの「きつさ」とは、血中乳酸濃度の処理能力に比例する、ということなんですね。

 

(小島)そうです。だから、ランニングの世界では「LT値(Lactate Threshold:乳酸性作業閾値)」という数値で、「その人が最も速く、そして最も長く走れる限界値」を把握し、このLT値の上限を高めることを走力向上の重要な条件としています。

 

(RP)なるほど。だから、E、M、T、I、R の5段階のうち、Tペースを超える速さのIペースに主眼を置くインターバル走で心肺機能を鍛えることが重要なんですね。限界に近いスピードで心臓に一定時間の高負荷をかけると、体が少しずつ適応して乳酸処理能力も高まっていくことが理解できます。

 

(小島)そうです。LT値は短期間には向上しませんが、地道な練習で毛細血管を活性化し、酸素の運搬能力と運搬量を高めていけば、その分、血液が「良い仕事」をしてくれ、体全体のパフォーマンスを高めて、疲労の発生ポイントが変化していきます。

 

(RP)血液が体中に酸素を運搬できる量とスピードが高まれば、より長い距離、より長い時間、より速いペースで走っても疲れにくくなり、その結果としてタイムが向上するんですね。マラソンの「サブ4(フルマラソンで4時間を切ること)」や「サブ3」は、その結果の一つなんですね。

 

(小島)はい。マラソンの歴史は「足で走る」、「心臓で走る」、「根性で走る」という歩みを経て、「血で走る」の時代を迎え、現在ではフォームやシューズ、細胞など様々な要素が考慮されていますが、昔から不可欠な心肺機能の重要性も、スポーツ科学やIT技術、生命科学の発展により、年々新たな観点から見直されています。ランニングは全身運動ですから、血液の仕事ぶりは変わらず重要で、速くなる条件は数あれど、VO2Maxの向上が最も重要な条件の一つであることは変わりません。

 

(RP)「血液が働く」というのはユニークな考え方ですね。ランナーの人たちがそういうことを考えて走っていると分かると、見え方が変わります。

  

(小島)私たちはプロのアスリートではありませんし、誰もがマラソン大会の記録向上のために走っているわけではありません。多くのランナーは、人生における健康増進の一つの手段として、仕事や勉強、日常生活のパフォーマンスを底上げするために、親しみやすいジョギングやランニングをしています。ですから、有酸素運動を通じて得られる財産である「働き物の血液」が手に入れば、それは全てのランナーにとって大きな収穫です。

(RP)誰にとっても、「健康で働き者の血液」は大切な宝物ですね。血行が改善すると、基礎体温も上がって冷え性やむくみも改善されるし、ダイエットにもつながります。でも、走ると脚が太くなりそうな心配もあります。

 

(小島)ランニングは「速筋」(瞬発力を発揮する太く白い筋肉)よりも「遅筋」(持久力を発揮する細く赤い筋肉)を使うスポーツですから、実は脚が細くなります。しかも、近年主流の「フォアフット走法」は前足部で着地し、股関節を使うので、最近のランナーはみんな太ももやふくらはぎが細いのが特徴です。私の悩みは、男性用のジーンズで、自分のウエストや脚に合うスリムなサイズがなかなか見つからないことです。

 

(RP)それは、特に女性には嬉しいニュースですね。体重が減って体型も引き締まり、さらに心臓、肺、筋肉、血流も健康になるなんて、いいことばかりです。

 

(小島)人体のパフォーマンスは血管と血液のクオリティに比例するし、多くの健康上のトラブルは血管、血流、血液の問題に応じて発生します。「走力の最大の決定要因は血液だ」とまでは断言しないにしても、走って得られる最大のプレゼントは「働き物の血液」だとは、私はいつも考えています。

 

(RP)現代社会の深刻な問題である生活習慣病も、放置すると糖尿病、高血圧、痛風、動脈硬化、動脈瘤、脳梗塞、脳卒中、脳溢血、脂肪肝、脂質異常症、心不全、心筋梗塞、狭心症・・・と悪化し、ほとんどが血管のトラブルを原因としています。発生場所が違うと病名も変わるものの、発端は血管の健康状態の悪化で、悪化する原因はコレステロールなどで血液が淀み、血流が悪化し、血行が阻害された結果、血管に異常をもたらすからです。

 

(小島)そう考えると、ジョギングやランニングは、誰もが無料で通える最高の病院だということもできますよね。私には親しい薬剤師や管理栄養士の友人がいるんですが、最近は「小島さんは私よりも健康です」と言われることも増えて、嬉しいです。

 

(RP)小島さんが日頃どのようにランニングに親しみ、また、ランナーの人たちがVO2Maxの向上を通じて心肺機能や体力をどう考えているか、よく分かりました。では、今後どのように血管をメンテナンスしていきたいと考えているか、聞かせてもらえませんか。

 

(小島)しばらくは、いわゆる「ゴースト血管」と呼ばれる、活動していない毛細血管を少しずつアクティブにしていきたいです。血液が働ける領域そのものを拡大することも、ランニングの大切な目的の一つです。

 

(RP)まずは、「血液の仕事量」そのものを増やすということですね。

 

(小島)その後は、稼働状態が良くない血管と、久しぶりに動き始めた「旧・ゴースト血管」にバランス良く負荷をかけ、血管の全体的な柔軟化を図っていきたいです。これは、長時間のスロージョギングや「LSD走(Long、Slow、Distance:長時間、低速、長距離を基準に走ることで、心肺機能をゆったりと高める走り方)」と、短時間のハイペースなインターバル走、レペティション走、ビルドアップ走の並行で行いたいですね。人生の後半を考えれば、将来的には動脈硬化をはじめとする血管の病気の予防にも役立つと思っています。老後に体の不安を残すような人生は送りたくありませんから。

 

(RP)量の次は、「質」の向上を通じた血管のトレーニングを行って走力を高め、同時に健康上の不安も解消していくんですね。

 

(小島)血液が仕事をできるエリアを広げ、血液のパフォーマンスを高めて、強弱様々な血流に耐えられる強くしなやかな血管を鍛えてから、健康な食を通じて血液そのものも健康にしていけば、VO2Maxも総合的に向上し、ランニングや仕事、勉強のパフォーマンスに反映されると考えています。

 

(RP)では最後に、ランナーや同世代の社会人へのメッセージをお願いします。

 

(小島)私はプロのアスリートじゃないので、ランニングを楽しみ、記録を高めていくために役立つと思ったことは、惜しみなく情報を共有したいです。私もこれまで、多くの方々から、速く長く楽しく走るヒントをもらって走ってきました。私たち中高年が健康で元気であれば、社会の根幹が安定して、日本の未来のためにも良いと思います。仕事はもちろん、日常生活や勉強、趣味を楽しみ、良き社会人であり続けるためにも、根本的な資本である体を知り、鍛え、健康な血管を手に入れ、大切にケアをしていきたい。そうして、できるだけ長い間、ランニングを楽しめれば幸せです。

 

(RP)本日はありがとうございました。